第32回げんさいカフェを開催しました

「日本の木造住宅の耐震性能」

建築構造学者 古川 忠稔 さん
名古屋大学大学院環境学研究科准教授

企画・ファシリテータ:隈本邦彦
  (名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。


 日本人は竪穴式住居(弥生時代)の頃からずっと長い間、木造の家に住んできました。一方、地震国である日本には、過去繰り返し繰り返し強い地震が起きています。果たしてその両者の関係は?

 ということで、今回のカフェは“日本の木造の家は地震に強いのか”をテーマにしました。ゲストの古川さんは大手ゼネコンの研究者から大阪大学を経て名古屋大学に来られた方、1995年阪神・淡路大震災での木造住宅の大きな被害を見たことなどをきっかけに、以後、木造住宅の構造の研究に本格的に取り組んでこられています。

 古川さんは、まず法隆寺をはじめとした日本の伝統建築の概略を紹介。古いお寺の柱がみんな丸いのはなぜかという秘密も語られて(当時は木材を縦に切る技術・のこぎりがなかったから、が答えだそうです)会場からは「なるほど」とうなる声も。

 いまの大工さんが造っている現状の日本の木造住宅の主流は「在来軸組構法」というのだそうです。(ツーバイフォーなどは違います)柱と梁を組み合わせて家の構造を作り上げる方法ですね。おおむね明治時代に確立した工法なのだそうですが、その中身も日本人の生活の変化にあわせて少しずつ変化してきているそうです。

 そもそも木は、重さ当たりの強さが鉄やコンクリートよりも強く、暖かみが感じられる質感など住宅を造るのにふさわしい建築材料。特に日本では、国土のどこででも手に入り、しかも伐採して何十年かすればまた生えてくるなど環境面でも優れた材料といえます。

 
 さて肝心の「日本の木造住宅が地震に強いかどうか」です。

 古川さんの結論は「よくわからない」のだそうです。その主な理由は、木材はその木1本1本、切り取ったその部分部分のばらつきが大きく、均一の材料として計算がしにくいこと。その点は、建築構造学者泣かせだそうで研究のために実験をしても、サンプル一個一個、結果がバラバラになってデータがまとまらないこともあるそうです。

 また、木そのものは軽くて固い材料ですが、組み合わせて建物を造ったときに、接合部の強度を高めることが難しく、その挙動をしっかり推計することも難しいという弱点もあるそうです。
 

 夏が暑く台風などの風水害がある日本の気候風土も、日本の家を結果的に地震に弱くしている可能性があります。日本の木造家屋は、夏の日差しを避け強い風に飛ばされないように「軒が深く」「屋根が重い」ことが多いのだそうです。屋根が重いトップヘビーな建物は地震には不利です。そして木はそもそも火に弱いですから、地震後に火災が発生するとたくさんの人の命が奪われることにもつながります。

 とはいえ人間には知恵があります。日本では過去の地震を教訓に少しずつ耐震基準を厳しくしてきました。壁が多ければ、地震に強い木造家屋になることが経験的に知られています。古川さんが示した阪神・淡路大震災で、震度7で揺れた地域の調査データでは、新しい耐震基準を満たしていた家屋の多くは大きな被害を受けなかったことがわかっています。つまり、いまの耐震基準の満たした日本の木造家屋は、おそらく地震に強いだろうということはいえるのでしょう。ただし手抜き工事や極端にバランスの悪い設計でない限り。

 南海トラフ巨大地震に向けては、古い耐震基準の木造家屋をどれだけ耐震化したり立て替えしたりすることが大切ですが、問題はその費用が結構かかること。そこで古川さんたちが開発した、できるだけ安価に手軽に耐震補強ができる「ウッドピタ工法」が紹介されました。その改良型「フレームタイプ」も人気なのだそうです。

 質疑応答では、式年遷宮で建て替えをするたびに伊勢神宮の建物は頑丈になっているのかという質問や、一部屋だけ耐震補強するという京都大学のアイデアをどう思うかなどの質問が出て、今回も盛り上がりました。古川さん、どうもありがとうございました。

日時:2014年1月9日(木)18:00〜19:30
名古屋大学カフェフロンテ(環境総合館斜め前、本屋フロンテの2階。ダイニングフォレスト向かい)

げんさいカフェのファシリテータについて


げんさいカフェのファシリテータは、NHK時代に科学報道に長く関わられた、サイエンスコミュニケーションの専門家である隈本邦彦氏(江戸川大学教授/減災連携研究センター客員教授)にお願いしております。毎回のカフェのゲストである各分野の専門家から、市民目線で科学的知見を聞き出し、分かり易い言葉で参加者に伝える事で、従来にない防災教育・啓発の実践が可能になります。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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