第116回げんさいカフェ(オンライン)を開催しました

「災(さい)とSeeing」連携企画 
「巨大津波石が教えてくれる南海トラフ地震への備え」

ゲスト:地理学者 平川 一臣 さん
   (北海道大学名誉教授)
日時:2021年 7月9日(金)18:00~19:30
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 今回は、減災連携研究センターが実施しているプロジェクト『災とseeing』との連携企画ということで、「東三河編」のビデオにご出演いただいた北海道大学名誉教授の平川一臣さんにゲストに来ていただきました。

 津波石というのは、昔の津波で、海岸付近の少し高いところまで運ばれ、そこに残っている石のことをいいます。
 愛知県西三河地方の伊良湖岬には、100トンを超えるような大きな津波石が、多数見つかっています。げんさいカフェのポスターに紹介したのも100トン超。こうなると石というより巨岩といったほうがいいですね。
 カフェではまず、平川さんから、海岸にたくさんある岩の中から津波石を見つける方法を教えていただきました。
 その一つは色の違い。
 伊良湖岬のあたりの海岸は、比較的色が黒い玄武岩の岩盤ですが、その上にチャートと呼ばれる白くて硬い岩石が載っているので、一目で津波石とわかるのだそうです。
 そこより高いところにチャートの層がないので、上から落ちてきたと考えられない。さらに近くには川がないので、土石流などで流されてきたということも考えられない。ということで、沖合の海底の岩が、大津波の時に運ばれ、水が引いた後にそこに残ったと考えられるということです。
 平川さんによると、伊良湖岬付近の沖合の海底にチャートの層があって、あきらかにこの一部が運ばれてきたと推定されるということです。
 伊良湖岬の付近には、標高3メートルから7メートルのところに、このような大きな津波石が数十個見つかっています。

 では、この津波石が、私たちに南海トラフ地震の何を教えてくれるのでしょうか?
 なにしろ100トンの巨大な岩が、重力に逆らって地上に運ばれるわけですから、相当大きな津波が起きた動かぬ証拠であると考えられます。それがいつのことかわかると、そのような超巨大地震が起きた時期がわかるというわけです。
 時期を確かめるためには、津波石の下を掘って、すぐ下に接している土を採取するのだそうです。その土に含まれている放射性炭素で年代測定をして、何千年くらい前の地面だったかというのを確かめます。
 カフェのポスターに登場している伊良湖岬灯台近くの津波石の下の土は、紀元前1640年から1520年くらいとわかりました。つまり今から3500年ほど前に、この場所に、ものすごい超巨大津波がやってきたということになります。
 南海トラフ巨大地震は、100年から150年に1回繰り返し襲ってくると言われてきましたが、最近の研究で、まったく同じ地震が定期的に来ているというより、来るたびにいろいろな個性があり、大きさも、巨大な津波石を運ぶ超巨大なものから、昭和の東南海、南海地震のように、それに比べると少し規模の小さいものがくることもあるらしいということがわかってきました。
 私たちが歴史記録などで知っているのは、せいぜい過去1400年くらいですが、何千年に1回くらい、それを上回るような超巨大地震がやってきている可能性もありそうです。
 平川さんによると、渥美半島から伊勢志摩地方にかけては、これまで津波石など津波堆積物を使った研究があまり行われてこなかったということで、平川さんたちがいま精力的に研究をされています。

 最後に伺ったのはちょっと残念な話。
 平川さんは、北海道大学を定年退官されたのをきっかけに、生まれ故郷の豊橋に戻ってこられたのですが、こちらに来られるより前に、地元の田原市が、伊良湖灯台付近に観光用の遊歩道を整備し、その工事に伴ってたくさんの津波石が撤去されてしまいました。
 40年前の1981年ごろの航空写真をみると、伊良湖岬付近にごろごろとたくさんの津波石が転がっていましたから、平川さんは、その津波石群がそのまま残されていれば、ここ数千年間の南海トラフ巨大地震の歴史の解明がもっと進んだかもしれないと悔しがっておられました。
 津波堆積物の研究は、開発が進んで人の手が加わると、難しくなるのが常です。
 渥美半島の津波堆積物も、そうなる前にもっと研究をしておかないといけないということですね。
 今回もオンラインで180人の方が参加してくださり、たくさんの質問をいただきました。平川さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

cafe116
→ポスター(PDF)

→災とSeeingツアー東三河編の動画はこちら

→過去のげんさいカフェの様子はこちら

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