第108回げんさいカフェ(オンライン)を開催しました

地震による建物被害とこれからの耐震設計

ゲスト:耐震工学者 護 雅史 さん
   (名古屋大学減災連携研究センター特任教授)

日時:2020年11月16日(月)18:00~19:30
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」との共催で実施しています。


 今回のカフェは、耐震工学が専門の護雅史さんに「耐震設計のこれから」について伺いました。
 耐震設計の基本的な考え方は、過去の地震による建物被害を踏まえて、少しずつ変化(進歩?)してきているそうです。
 まずはその歴史を教えていただいたのですが、そこで見せていただいたのが「志賀マップ」というものです。東北大学名誉教授の志賀敏男先生が、1968年の十勝沖地震のときに、鉄筋コンクリート造の建物の被害を詳しく調べた結果を一つのグラフにまとめたものだそうです。
 この十勝沖地震で被害が大きかった鉄筋コンクリートの建物は、壁が少なく主に柱が建物の重さを支えている建物だったということです。志賀先生は、柱と耐震壁の割合がどれくらいだったら、どれくらいの揺れに耐えられるかという調査結果を「志賀マップ」として示しました。
 その後、1978年には宮城県沖地震が起きたのですが、この時の建物被害に「志賀マップ」を当てはめてみると、被害の状況と、柱と壁のバランスのデータがけっこうよく一致したということです。
 そこで、その3年後1981年に、新耐震設計法が、全国の耐震基準として適用されるようになり、その中に柱と壁の量のバランスをよく考慮した方法も盛り込まれました。

 しかしその後1995年に起きた阪神・淡路大震災の時の建物被害では、この「志賀マップ」とはちょっと違う被害が起きてしまいました。
 阪神・淡路大震災でも、新耐震設計法のうち、確かに柱と壁の量のバランスをとった設計を行った建物の方が被害が少なかったという傾向はあったのですが、同じ新耐震設計法の建物でも、「階数が高くなるほど被害が大きい」という傾向がみられたのだそうです。例えば3階建以下の建物では、倒壊・大破したのは2%以下だったのに、10階建ての建物では30%が倒壊・大破していました。

 
 護さんは、実際に起きた被害から考えると、いくつかのルートがある新耐震設計法では、どのルートを採用するかによって、鉄筋コンクリート造建物間でも、結果的に、想定している地震の揺れが階数の多い建物には緩く、階数の少ない建物には厳しいものになっているのではないかと指摘されました。
 そのカラクリがちょっと専門的で、数式なんかも出てきて、カフェの参加者の皆さんも私もついていくのに精一杯だったのですが(笑)要するに、堅牢な鉄筋コンクリートの建物でも、高い建物は、地震のときに上の階ほどよく揺れるのですが、低い建物は、その直下の地盤が建物に引きずられて一緒に動くことから、「上の階でも揺れがあまり大きくならない」ことの違いだということのようです。耐震設計をする時には、各階にかかる加速度の平均値が同じとして計算していることになっているので、結果的に、建物に入力される地震の揺れの強さが、高い建物には緩めに、低い建物には厳しめになってしまうということです。

 一般国民の立場からすれば、厳しめの方に、全体をあわせてもらったほうが安心なんですが、街の建物はほとんど民間の建築物ですから、建設費用が高くなりすぎたりするもの問題ですし、確かに壁が多いほうが地震には強いものの、壁ばかりで窓が小さい建物ばかりというのも実用的にはあまり良くないのかもしれません。
 このあたりの研究を今後進めていって、より実態にあった耐震設計法をめざそうという動きが、いま学会の中で動き始めているということでした。今後に期待ということですね。
 
 カフェで護さんが紹介してくださった建物被害の中には、4年前の熊本地震の時に途中階が崩れた熊本県宇土市役所の写真がありました。その近くで、壁の多い公営アパートのような建物は大丈夫だったのに、柱と窓が多くて階数の高い市役所の建物は壊れてしまったんですね。
 しかし市役所や町役場のように災害後に復興の拠点となるような大事な建物が壊れると住民は困ります。やはりこのような教訓を生かして、大事な建物は壁が多めの地震に強い建物にしていく必要があると思いました。
 今回もオンラインカフェでしたが、90人ほどの参加をいただき、活発な質疑応答が行われました。
 護さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。


→ポスター(PDF)

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