第102回げんさいカフェを開催しました

巨大地震からの早期復旧をどうするか?

ゲスト:地震学者 新井 伸夫 さん
   (名古屋大学減災連携研究センター特任教授)

日時:2019年11月5日(火)18:00~19:30
場所:名古屋大学減災館減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 南海トラフ地震など、巨大災害の発生に備えて、国はさまざまな防災研究を進めていますが、その中の一つSIP2期「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」という5年計画の研究に、名古屋大学減災連携研究センターの研究者も参加しています。今回のカフェでは、そのまとめ役の研究者である新井伸夫さんに、研究の目的やポイントを聞いてみました。

 レジリエンスというのは「回復力」「復元力」といった意味の言葉で、災害が起きても簡単に壊れずしっかり回復できる社会を作っておこうという考え方です。その意味で、最悪220兆円ともいわれる次の南海トラフ地震での経済被害を、どうずれば最小限にできるか、そのためには何をしておくべきか研究するのが、このプロジェクト研究のねらいだそうです。

 災害後の復旧にはまず、何が必要でしょうか。
 なんといっても道路インフラ、電気・水道・ガスなどのライフラインの復旧ですね。それは被災地住民の生き残りのためだけではなく、被災地の企業がいち早く経済活動を再開することによって、地震による経済被害を最小化することにも役立つはずです。
 最近では、各企業がそれぞれBCP=事業継続計画を策定して、地震が起きても企業活動が続けていけるよう準備し始めていますが、そうした計画は、周囲の道路やライフラインがいつも通り使えることが前提になっている場合がほとんどです。つまり企業活動の復旧の速さは、道路やライフラインの復旧にかかっているといっても過言ではありません。

 問題は、道路の復旧をどこから始めるかです。
 道路の管理者は、国、県、市町村と分かれていて、ふだんはあまり連携をとっていません。災害後にそれぞれがやみくもに復旧工事を始めてしまうと、非効率になったり、いちばん大事な道路の復旧が後回しにされたりしかねないわけです。
 そこで新井さんたちのプロジェクト研究では、どの道路から復旧させていくと最も効率的で、経済被害を最小化できるか、その順番をつける研究を始めています。
 研究フィールドはモノづくりの重要拠点である愛知県。
 愛知県内の企業が、ふだんどこから部品・原料などを調達して、どこに製品を送っているかという詳しい調査を行い、そのデータをもとに、企業活動を支えているルートとしてどの道路が一番重要であるかという順番を決めるのだそうです。物流の担当者からも話を聞いて、データの妥当性をチェックします。
 一方で、いざ発災ということになったら絶対必要になる道路というのもありそうです。
 たとえば電力の早期復旧のためには、電力会社の車両が通る道が大切です。ふだんはあまり交通量が多くなくても。その道路が災害時に通れないとライフラインの復旧が遅れるわけです。そこで、電力会社の各営業所から変電設備まで行く道路も、早期復旧が必要な道路の中に加えました。
 そんなふうに考えると、浄水場への道など、ライフライン復旧のために早期開通が必要な道は他にもありそうですね。

 もう一つ大切なテーマは、実際に道路復旧に必要な資材などをどう確保するかということです。
 災害後には、ブルドーザーなどの重機とそれを操作できる人の取り合いになることが予想されます。南海トラフ地震のような広域災害では、多くの自治体が同時に被災するため、お隣や周りからの支援はあまり期待できません。そこで、それぞれの地域では、自前で、重機や人員を確保しておくことが重要ですが、それがどこまで可能か、現在調査が続いているということでした。

 研究では、このような詳細な調査をあらかじめしておくだけではなく、被災後に被災状況のデータを入力するだけで、物資拠点へのアクセスのしやすさ、避難場所の利用しやすさ、給水拠点へのアクセスのしやすさなどを客観的に計算するシステムの開発もめざしています。被災後の経済活動をより早く平常に戻すためには、工場・会社への通勤しやすさなどもデータ化されるといいですね。

 次の災害に備えるということは「被災後の社会」もしっかり見据えていかないといけないということを学ぶことができたカフェでした。
 新井さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。


→ポスター(PDF)

※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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