第93回げんさいカフェを開催しました

東日本大震災後も続く『想定外』を考える

ゲスト:地殻変動学者 鷺谷 威さん
   (名古屋大学減災連携研究センター教授)

日時:2019年2月12日(火)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。


 東日本大震災の後、国は、防災対策から「想定外をなくす」という方針を決めました。南海トラフ巨大地震の想定をマグニチュード9.1という最大級のものにしたのもその考え方の表れですが、ほんとうに「想定外をなくす」ことは可能なのでしょうか?
 そのあたりを専門家の鷺谷さんに聞いてみよう、というのが今回のカフェのねらいです。
 
 去年(2018年)にインドネシアで起きた2つの災害は、われわれ素人からするといずれも「思いもかけぬ」災害でした。
 1つ目が、9月に起きたスラウェシ島の地震。通常は津波をほとんど起こさないはずの横ずれ断層の地震だったにもかかわらず、大きな津波が起きて被害が拡大しました。いまのところ地震の揺れでおきた「海底地すべり」が津波の原因だったのではないかとされているそうですが、詳しいことはまだ調査中とか。2004年のスマトラ沖の地震津波以降、津波への警戒を強めていたインドネシア国民にとっても今回は「思わぬ災害」でした。
 2つ目が、12月に起きた「クラカトア火山噴火による津波」。火山噴火で大規模な山体崩壊が起き、海に流れ込んだ大量の土砂の影響で大きな津波が発生したと考えられています。コンサートで盛り上がっている最中にステージが水に飲まれるという動画が象徴的でしたが、住民にとってはまさに「不意打ち」で、誰も警戒していなかった中での災害だったことを物語っていました。

 ただ災害の歴史を振り返ると、この2つの災害は決して事前に想定できないわけではなかったのだそうです。
 日本国内でも、1896年の明治三陸地震では、沿岸で激しい揺れを感じなかったのに大津波が襲来し、約2万人が死亡したという経験があります。また1792年の「島原大変肥後迷惑」と呼ばれた災害では、雲仙普賢岳の噴火で眉山の山体崩壊が起き、流れ込んだ土砂で対岸の肥後の国(いまの熊本県)を津波が襲い約15000人の死者が出ています。「思いもかけない」災害だけど「想定外」とは言えない災害があるんですね。

 むしろ鷺谷さんのような研究者から見ると、とても気になる最近の「想定外」が、国内で2つあったそうなのです。
 1つは2018年9月の北海道胆振東部の地震。この地震の震源の深さ37キロというのは、普通は温度が高いなどの理由で強い地震を起こさないと考えられている深い場所です。しかもそれほど深い地震でも地表で震度7となり、たくさんの犠牲者が出てしまったことは、日本国中どこでも震度7を覚悟しないといけないということを改めて教えてくれた「想定外」だったということです。
 もう一つは2016年11月に福島県沖で起きたM7.4の地震に関する「想定外」です。この地震では発生直後に、福島県に津波警報、宮城県に津波注意報が出されましたが、実際にはむしろ宮城県沿岸の方に高い津波がやってきたため、約2時間後(津波の到来後)に宮城県の注意報が警報に切り替えられるという事態になりました。
 東日本大震災の経験をもとに、当時すでに最新鋭の沖合津波計(水圧計)のネットワーク=S-netが東北沿岸に整備されていたにもかかわらず今回の津波が正確に警報できなかったことは関係者に大きな衝撃を与えたそうです。得られたデータをもう一度解析しなおすと、より現実に近い警報が出せることがわかったということで、まさに「宝の持ち腐れ」にならないよう、この経験を今後の津波予報に活かしてほしいと思います。

 カフェの最後に、鷺谷さんは、「防災対策の想定外」が起きる理由について、(1)そもそも最初に考えた「起こりうる事象」の規模そのものが小さ過ぎた場合(認識の錯誤)、(2)実際に「起こりうる事象」に比べ、事前に考える「想定」が小さすぎた場合(想定の過小)、さらに(3)「起こりうる事象」の想定は正しいが、それに対する対策が不足した場合(対策の不足)の3種類があり、いずれも絶対起きないようにすることは、きわめて難しいか、考えられないくらいカネがかかるため現実的ではない、と話していました。

 結局のところ「想定」というものは、確かに役所が対策予算の規模を決めるためや、訓練の実施のためには必要だけれども、我々庶民はそんなことにはとらわれず、すぐできること(ハザードマップの確認や家具の固定)をしっかりやって、突発の災害に備えることのほうが大切なのではないかと感じました。

 鷺谷さん、参加者の皆さん、今回もご参加ありがとうございました。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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