第92回げんさいカフェを開催しました

「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応」って何?

ゲスト:地震工学者 福和 伸夫さん
   (名古屋大学減災連携研究センター長・教授)

日時:2019年1月7日(月)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 国は一昨年(2017年)11月、東海地震(南海トラフ巨大地震)予知にかかわるしくみを改め、それまでの「判定会招集」→「東海地震予知情報」→総理大臣による「警戒宣言」発表というプロセスをストップさせました。
 それ以降は、気象庁が「南海トラフ地震に関連する情報(臨時)」を発表するというしくみになったわけですが、ではこの「情報(臨時)」が出た時に、私たちはどのように対応すればいいのか、ということについては、それ以降ずっと検討中という状態でした。
 それがようやく昨年末に、国としての対応の基本方針が決まったということで、これを話し合ってきた「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ」の座長を務められた福和さんにお話を聞くことにしました。

 福和さんによると、このワーキンググループでは「理科から社会へ」という視点の転換を目指したということです。
 そもそも観測体制を強化すれば地震が予知できるのかできないのかという、いわゆる「理科」の問題については、別のワーキンググループが長い間議論をした結果、「現時点においては(総理大臣が警戒宣言を出して、新幹線やデパートの営業を止めてしまうほどの)確度の高い地震の予知はできない」という結論を出しています。
 しかし「正確な予知はできません」と宣言するだけでは、被害を減らしたり住民の生命を救うことはできません。
 福和さんたちのワーキンググループでは、「不確実な情報なら出すべきではないという意見の人もいるが、不確実だけれども何か情報が得られたのであればその情報はなんとか減災に活かすべき」という方針を決め、その中身を検討したのだということです。まさにこの問題を「社会」の問題として対応するためのグループだったということですね。
 そこでメンバーには地震の研究者だけでなく、自治体の立場から静岡県と高知県の代表と、産業界の立場から中部経済連合会の代表が加わって、実際にどのような対応があり得るのか現実的に考えてきたということです。


 
 結果的に、防災対応を決めておくべき「異常な現象」としては、
1.(半割れケース)
  南海トラフの東側半分ないし西側半分でM8.0以上の地震が発生した場合
2.(一部割れケース)
  震源域内のプレート境界でM7.0以上M8.0未満の地震が発生した場合
3.(ゆっくりすべりケース)
  観測網のひずみ計等で通常とは異なるゆっくりすべりが観測された場合
 の3つの事態を想定したということです。

 このうち(半割れケース)では、「地震発生後に避難したのでは明らかに間に合わない海沿いの地域の住民や、急いで避難のできないお年寄りなどはあらかじめ避難する。それ以外の人は避難の準備をしたり、自主的に避難したりする」と決めました。そうやって最も警戒する期間は、基本は1週間としています。
 (一部割れケース)では、日頃からの地震への備えを再確認する等警戒レベルを上げるという対応になるそうですが、(半割れケース)で1週間何も起きなければ、この(一部割れケース)の対応に緩めてさらに1週間様子を見ることになるのだそうです。

 参加者のみなさんからは「いまその南海トラフ地震に関連する情報(臨時)が出されたら地域の私たちはどうすればいいのか」という質問が出て、福和さんは「まだ年末にワーキンググループの報告が出たばかりで、これから国の方針が決まり、各都道府県が詳細な防災対応を決め、さらに市町村、町内会と降りてくると思うのであと1年半くらいはかかるかもしれない」と答えていました。しかし、(一部割れケース)でやるべき「日頃からの地震への備えの再確認」というのは、家の耐震性のチェックや家具止めをすること、さらには食料や水の備蓄をするということですから、本来、地震に備えて当然やっておくべきことです。自分の命を守るため、国や自治体からの情報をただ待つのではなく、生き残りのための手段をできるだけとっておくということを改めて考えなければと思いました。
 福和さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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