研究領域

研究領域要約

◆地震火山観測研究

日本列島では活発な地震・火山活動が様々な災害の原因となっている。これらの自然現象は、現象の時空間スケールが我々の生活実感から大きくずれており、そのこと自体が災害をもたらす根本的な要因となっている。また、そうした事象の特徴や仕組みにも未解明の部分が多い。本研究領域では、こうした自然現象の本質をより良く理解し、減災力向上の基礎とすることを目的として、環境学研究科附属地震火山研究センターと連携しながら、地震・地殻変動の観測を通した地震火山現象の解明を進めている。現在は大地震の発生時、地震後、地震間における地殻変動の観測研究、インフラサウンドによる自然現象の解明・監視、能動震源ACROSSを用いた地下構造の時間変化の研究を進めている。

◆活断層・地震断層研究

南海トラフ地震前後に内陸部で直下型地震が頻発する可能性がある。その際には震源地付近において震度7に達する強い揺れや、断層直上における断層破壊や、揺れにより誘発された斜面崩壊や液状化などによって、深刻な被害が生じることが予想される。こうした状況の予測精度を高め、事前に周知することは防災・減災研究にとって非常に重要である。本研究領域では、理学的視点から活断層そのものの挙動とそれに伴う深刻な被害発生のメカニズムを研究している。また同時に地盤力学の手法により、不整形地盤で発生する表面波を計算で求め、さらに、地表面に現れる地震断層の出現を再現する手法開発を行っている。断層近傍の甚大な被害に対する研究例は乏しく、本格的対策は遅れている。今後、南海トラフ地震との関連で発生する可能性の高い局所的災害を如何に軽減できるかは、広域的災害対策において大きな課題のひとつである。

◆歴史災害研究

大地震などの自然災害は一般に発生頻度が非常に低く、近代的な観測データに基づく災害事例の知見には限界がある。しかし、歴史を過去にさかのぼればより多くの事例に学ぶことが可能となる。過去の災害事例を調べると、原因である自然要因や被害拡大の原因、社会の災害対応や復興過程にいたるまで、自然災害を総合的に捉える視点が生まれる。また、住み慣れた地域における災害事例を知ることは、災害をより身近なものとして捉え、将来の災害へ向けた減災の取り組みを進める上での基礎となる。こうした観点から、本研究領域では歴史災害の研究を重点的に進めており、歴史史料に基づく古地震の分析を通じて、過去の大地震の震源過程解析、詳細な震度分布評価、建築物被害調査、震災慰霊碑・記念碑・遺構の調査を行うとともに、津波堆積物調査に基づく過去の津波の分析も行っている。

◆強震動研究

近い将来、南海トラフの地震や首都直下地震の発生が懸念されている。東京や大阪、中京圏には、膨大な数の超高層建物や免震建物があり、上記地震に対する耐震安全性の確保は喫緊の課題となっている。このような建物の耐震設計においては、設計用入力地震動による地震応答解析が必要となる。したがって、設計用入力地震動の適正な評価が非常に重要である。本研究領域では、地震震観測や地盤調査結果等に基づく広域で解像度の高い地下構造モデルを構築すると共に、独自に開発した擬似経験的グリーン関数法や相反定理を用いた有限差分法による新たな強震動評価法や地盤応答解析法等を用いた高精度な強震動予測研究、有限差分法による不整形な地下構造が地震動に与える影響も評価、断層近傍地震動による地盤変位の評価、啓発教材としての地震の作成等の研究・開発を行っている。

◆災害情報研究

大規模災害対策の適正化を困難にする主な要因のひとつに、被災(予測)状況の広域的分布や地域性を把握することの難しさがある。災害の事前、直後、復興期のそれぞれにおいて必要となる災害地理情報を評価し、共有・伝達する手法を開発することはとくに広域災害に対する防災・減災において極めて重要なテーマである。本研究領域ではGIS・リモートセンシング・webシステム・コンピュータシミュレーション等により、災害現象の事前・直後対応として、(1)ハザードマップの災害予測・情報伝達機能の向上、(2)発災時のリアルタイムな情報把握・共有手法の高度化、(3)リモートセンシングによる災害状況把握手法の開発等を行っている。また、インフラやライフラインの復旧・復興のため、(4)水道システムの地震リスク低減や災害廃棄物マネジメントに関する研究、(5)ストック型社会の構築に向けた強靱で持続可能な都市形成に関する研究、(6)都市・地域計画等の策定・合意形成支援のための研究を推進している。

◆土木構造・地盤災害研究

橋梁、道路、堤防・護岸、上下水道、盛土・造成宅地などの土木構造物・社会基盤施設(インフラ)は市民の日常生活や国の産業・経済などの屋台骨を支える。従って、これらのインフラを地震による揺れや液状化の被害を防ぐまたは軽減することは極めて重要であるため、材料の物性把握のための要素・模型実験の実施や、解析コードの開発と地震時応答解析・耐震性能評価・強化対策工法の開発などが必要である。本研究領域においては、局部変形を有する地中埋設鋼管の耐震安全性の解明、長期経年鋼構造物の実験的・解析的耐震性評価、大規模崩壊盛土の事後調査や変状発生機構の解明、危険盛土の優先順位付けなどの事前対策、新しい宅地地盤調査法の開発、地震時の液状化などの発生機構の解明や密度増大工法などの地盤改良評価手法の開発を行っている。

◆水災害軽減研究

近年、地球規模で進む気象の極端化に伴う記録的な降雨による洪水や土砂災害、強大な台風による高潮・高波災害が激甚化している。また、南海トラフ巨大地震の発生に伴う甚大な津波災害も懸念されている。これらについては、基礎的な現象解明・予測評価に加え、それに基づくハード・ソフトの対策検討が必要である。本研究領域においては、洪水による堤防決壊機構の解明などに加え、豪雨時の外水・内水氾濫の被害予測に基づく各種事業継続計画の策定支援を行っている。特に強大な台風来襲時に対しては、「タイムライン」導入による危機管理行動計画策定支援に取り組む。また、流域・河道内の治水対策効果の評価技術や、河川の治水機能の維持管理技術の開発を行っている。地震津波に対しては、伊勢湾内外における津波リスクの解析評価、伊勢湾湾口部の海洋レーダによる津波観測を用いた予測精度の向上、津波に対する粘り強い防波堤形状の検討、構造物周辺の津波局所洗掘機構の解明と被害軽減技術や対策工法の開発,災害発生後の航路啓開に必要な資源評価を行っている。

◆耐震建築研究

建築物の耐震化は,地震防災の基本である。技術開発,地震動,地盤,基礎構造,地盤・建物の動的相互作用,等,トータルな視点から研究が必要である。研究手法としても,実験検証,被害調査・分析,地震荷重,耐震設計法,強震観測・モニタリング等と,多岐にわたる。本研究領域では,鉄骨造オフィス,鉄筋コンクリート造共同住宅,木造戸建て住宅に対する耐震評価,長周期地震動に共振する超高層建物の被害評価と改修方法のほか,高度免震技術の開発にも取り組んでいる。建物構造が損傷を受けて生じる揺れの特性の変化を探知して,地震後の性能即時評価に資する各種計測技術の検証に取り組んでおり,基礎・地盤を含めた条件での損傷評価,機能損失評価も進められている。経済性,施工性の高い普及型高耐震工法の開発研究,材料経年評価,新材料開発など,将来を見据えた息の長い課題にも取り組んでいる。

◆災害医療・心理

南海トラフ巨大地震などの広域災害が発生した際には、医療体制の継続に様々な支障が生じ、被災者の心理状態にも特段のケアが必要となる。そのため起こりえる事態を事前に想定して、準備態勢を構築するかに関する防災・減災研究が求められている。医療・災害臨床心理学的対策は、防災・減災において重要な鍵を握っている。本研究領域では、救急搬送/分散搬送システム、災害時医療体制、全身性炎症反応症候群・多発外傷治療等、災害を想定した減災医学研究を推進している。また、臨床心理学をベースにした被災者の心のレジリエンスの研究を進め、「心の減災心理教育プログラム」「心の減災教材集」を作成したり、外国語版(英語、ポルトガル語、タガログ語、中国語)「心の減災リーフレット」などを開発している。作成した心の減災教材集やプログラムを使用した地域における心理教育の実践活動も行っている。

◆災害環境マネジメント研究

東日本大震災以降,巨大災害後の応急対応・復旧・復興に貢献する環境技術開発や,将来の災害に備えた持続可能な地域社会づくりが求められている。本研究領域では,災害環境マネジメント研究を通して,減災地域社会づくりに貢献する。豊かな自然環境を保持しながら,自然災害をしなやかに受け流す「自然共生社会」の構築するため,多層空間情報の統合・分析による課題解決手法を研究している。また,災害発生時に何らかの被害により本来提供すべきサービスを失った構造物の物質重量を「失ったストック」と定義し,その推定手法の開発,災害初動時においても活用可能な災害廃棄物量把握システムの開発,津波堆積物や分別土砂の処理・利活用の実現に向けたリアルタイム集積データを利用した災害廃棄物処理事業支援システムの開発を行っている。

◆経済被害・事業継続研究

南海トラフ巨大地震などがもたらす破局的災害を回避するための備えや早期回復のための方策を考究することが求められている。本研究領域では,経済被害の定量評価、事業継続マネジメント等による被害軽減や早期業務再開方策、都市機能への甚大な被害の回避と早期回復を実現するための技法に関する研究を通して,減災地域社会実現に貢献する。地域の産業特性を考慮した空間的かつ動的な経済モデルを開発し,大規模災害への適用によりさまざまな施策を検討している。電力や水道など都市インフラの観点から,社会機能が相互依存した現実社会のボトルネックを克服するための方策,民間企業が事業継続に取り組むことの促進方策等,南海トラフ巨大地震においても実効性のある地域社会の事業継続の取組方策について検討している。

◆地域防災力研究

南海トラフ巨大地震のような大規模広域災害時には、基礎自治体間でスムーズな連携対応を行うことが不可欠である。また、自治体の職員数では、十分な対応が不可能で、自助は言うまでもなく、地域住民同士の助け合いしての地域防災力の向上が重要である。本研究領域では、行動誘発と対応力強化による災害被害軽減と減災連携による持続発展社会構築研究、西三河地域における情報連携を基盤とした災害時連携対応の検討、指定避難所以外の避難者の発生傾向に関する研究、大規模災害時の避難者支援マネジメント研究、復興まちづくりとリスクマネジメント研究、住民の意識が地域防災に及ぼす影響に関する研究、企業のBC(事業継続)取組促進手法、多様な主体による予防防災活動の展開方策、地域防災力支援するための研究、さらには、日本の防災手法の海外展開方策等を実施している。

◆都市計画・まちづくり

減災の実現には都市の現状評価に基づく対策と共に,地域状況に応じた自発的な取り組みが必要である。本研究領域では,発災前及び発災後の避難者支援計画作成,支援資源算定,および事前の避難場所の確保に資することを目的とし,地形や社会的条件の異なる地域の避難所形成過程の評価や地域拠点支援型の避難者支援マネジメントの構築に取り組んでいる。また,東日本大震災後の復興の取り組みを事例に,地域特性に応じた津波に対する安全確保方法の類型化にも取り組んでいる。都市計画の視点からは,巨大な自然災害による都市の生命健康被害・生活の質低下を空間的に評価するシステムの開発,また被害軽減を考慮できる支援ツールの開発にも取り組んでいる。また,過去の地形図等から堤防と土地利用を抽出し,地域の治水システムの特徴や成り立ちを分析することで,防災や土地利用の在り方を検証している。

◆防災教育手法研究

災害を減らすためには、市民・企業・自治体など多様な主体に災害に対する「わがこと感」を醸成し、過去の災害における教訓や伝承や、新たな研究成果に基づく知見などを災害前に効果的に伝えていくことが重要である。そのためには、多様な主体に対する防災・減災教育に資する手法や教材の開発や、その実践として防災教育の草の根的な活動の展開とそのPDCAサイクルが必要である。
本研究領域においては、市民向けとして「減災館」を中心に据え、減災行動誘発に効果的な実験教材「ぶるる」や災害学習アプリ、耐震化教材となる振動体感環境などの研究開発を行っている。企業や自治体向けには、開発した大判地図を用いたワークショップ手法に基いて、広域災害時の俯瞰的情報共有の重要性の認識醸成や相互連携に必要な課題抽出とともに、災害後に早期に情報集約し的確な災害対応を誘導するシステムの研究開発を行っている。また、企業の事業継続や自治体の地域継続の取組促進手法の開発や、日本の防災教育・防災手法の海外展開方策の検討にも取り組んでいる。