第85回げんさいカフェを開催しました

企業のBCP、何のため?

ゲスト:企業防災BCP仕掛け人 西川 智 さん
   (名古屋大学減災連携研究センター教授)

日時:2018年6月6日(水)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 大きな災害の後、被災地の企業の経営者さんのところには、ちょうど1週間くらいがたったところで必ずと言っていいほど、銀行員と取引先の人がお見舞いにやってくるのだそうです。なぜ1週間後?被災者の気持ちに配慮してしばらく落ち着くまで待っていた?
違います。そんなきれいごとではありません。
 そこにお金を貸している銀行にしても、取引先の企業にしても、ちょうど被災から1週間くらいたったところで「工場はどれくらいで再開可能か」「経営者は再建の意欲を十分持っているか」を値踏みにやって来るのです。もし生産再開までにかかる期間が、その取引先企業にとって「待てる期間」を超えるようようであれば、すぐに別の取引先を探し始めますし、そうなると銀行もその会社を見限ることもあり得るということです。
 なかなか世知辛いお話ですが、これが世の中の現実だと、今回のゲストの西川智さんはおっしゃいます。名古屋大学に来られる前、国の防災行政の中心的な官僚だった西川さんは、新潟県中越地震の災害対策本部で、実際にこの話を聞いたのだそうです。
 これまでにも、大きな地震によって事業が長期間にわたってストップしたため、取引先を他に奪われ、その後業績不振に陥った企業は数多くあります。企業にとってBCP(被災後の事業継続計画)は、絶対にしっかりたてておかないといけないものなのです。

 国全体としてもBCPは重要です。例えば南海トラフ巨大地震についての国の被害想定では、最悪の場合、資産等の直接の被害が約170兆円と推計されていますが、さらに工場生産や流通が止まることによる経済へのマイナスの影響は、国の予算の半分にあたる約50兆円に上ると推計されています。大きな震災の後にも日本が国として成り立っていくためには、それぞれの企業が事前にしっかりとBCPを立てておき、経済被害を最小限に抑えることが必要なのです。

 官僚として1991年度(平成3年度)の防災白書の執筆を担当していた西川さんは、こうした企業の防災活動の重要性を、この年の白書に初めて盛り込みました。それを日本の名だたる企業経営者が加わる経団連に説明に行きましたが、残念ながらほとんど“門前払い”だったそうです。多くの大企業の経営者たちの反応は「そんな細かいことは総務部長に言っておいて」という感じだったとか。
 しかし、企業の各部門に大きな影響を与えるBCPには、実際にはトップの経営者の判断・決断が必要です。そしてそれが結局は企業の存続まで左右する可能性がある、ということには当時、まだあまり実感を持ってくれる企業は少なかったのです。
 ところがその後に起きた1995年の阪神・淡路大震災、2000年の東海豪雨、そして2001年のアメリカ同時多発テロが、日本の経営者の意識を変え、BCPへの関心が高まりました。
 そして2011年の東日本大震災。日本の自動車メーカー各社が共通で使っている電子部品の製造工場が被災して止まったため、すべてのメーカーの生産が大幅に滞るという事態が発生しました。万一に備えて部品の供給元を複数にしておいたつもりが、実は自動車用半導体という特殊な部品を作る工場は限られていたからです。

 こうした苦い経験を経て、いまでは日本の経営者の口からBCPという言葉が当たり前のようで出てくるようになりました。
 西川さんたちは10年位前から、BCPに先進的に取り組んでいる企業を表彰して、他の企業でも真似をしてもらうという試みも始めているそうです。また政府系の金融機関が、BCPへの取り組みが進んでいる企業に低利融資をするという「防災格付融資」も注目されています。
 
 とはいえBCPの整備はまだ大企業が中心で、中小零細企業ではまだまだのようです。予想される巨大地震に備えて、急がないといけません。
 今回もさまざまな質問が出て盛り上がりました。西川さん、参加者のみなさんどうもありがとうございました。



→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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