第79回げんさいカフェを開催しました

「大地震による建物の揺れと被害を測る」

ゲスト:地震工学の専門家 飛田 潤さん
   (名古屋大学災害対策室長・教授)

日時:2017年12月11日(月)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。


 今回のカフェのゲストは、揺れを測る専門家、飛田潤さんです。
 私たちは「地震の揺れによって、時として家が壊れる」ということは知っていますが、じゃあ実際に「地震動によって建物がどんなふうに揺れて、どこがどう壊れていくのか」ということを全部わかっているわけではありません。
 そこで飛田さんたち研究者は、建物のいろんなところにセンサー(高感度の地震計)をつけて揺れを測定することで、上記の命題に答えを見つけようと、日夜努力をしているのだそうです。
 減災館の建物にもたくさんのセンサーがついていて、その観測結果が1階のモニターに常に表示されています。試しに、げんさいカフェ参加者全員で、ドンとその場で足を踏み鳴らしてみると、確かに、モニターに揺れの波形が表れました。1階の揺れは、最上階のセンサーでも観測されました。建物全体が揺れたんですね。
 そうでなくても近くを通る車や地下鉄のせいで減災館の建物は常時、ほんのわずか(人は全く感じないレベルで)揺れています。そしてそれを分析すると、いざ大きな地震動が来た時にどのような揺れ方をするか、ある程度推定することができるのだそうです。
 例えばすべての建物には、その建物特有の揺れやすい周期=固有周期があります。それはふだんの建物のわずかな揺れの周期を調べてみれば、すぐにわかります。
 また建物の形によって、ねじれるように揺れたり、一部だけが特に良く揺れたりといった特徴がある場合もあります。それも、建物のいろんなところに取り付けたセンサーの観測結果をコンピューターに入れて可視化すると、リアルな動画で見ることができます。
 飛田さんが、ある市役所の建物の観測結果を見せてくれましたが、とても複雑な動きをしていました。地震の時にも、そうした動きをする恐れがあるので、こういう建物の揺れ方の特徴をあらかじめ知っていれば、例えば耐震補強工事をするときにもどこを重点的に補強すべきか検討する手掛かりがわかります。

 名古屋大学ではキャンパス内の多くの建物にセンサーを付けてありますから、実際に地震があると、建物がその地震でどのように揺れたのか良くわかります。
 2003年1月の東海道沖の地震(海底で起きた地震で比較的ゆっくりした揺れの成分が多かった)の時の記録を見ますと、10階建て鉄骨造のビルの最上階は地上の揺れの何倍も揺れ、揺れの継続時間も3分近くになりましたが、同じ地震で3階建て鉄筋コンクリート造のビルの3階は、地面の揺れとほとんど同じような揺れですみました。同じ地震でも建物によってずいぶん揺れ方が違うということです。
 一方、同じ年の3月に起きた愛知県東部の地震(直下型のガタガタという揺れ)の時の記録では、10階建ても3階建てもほぼ同じように揺れていて、地震のタイプによっても建物の揺れ方は変わるということもわかります。
 当然のことですが、いまの耐震設計は、すべてのタイプの地震を想定して、それをクリアするように設計されているわけではありませんから、やはり実際の地震でどのような被害が出るかは、おおまかに推定することはできますが、ある程度どうしても不確実な部分が残ります。我々はそのことを知っておかないといけません。
 このカフェで何度も議論してきたように、新しい耐震基準を満たしている建物は、満たしていない建物よりも地震で壊れにくいという(住んでいる人が生き残れる)ということは間違いありません。でも満たしていれば必ず大丈夫とか、満たしていないと必ず壊れるというわけでもないのですね。実際、約23年前の阪神淡路大震災の激震地域では、新耐震基準でも高いビルほど損傷が大きかったという調査結果がでています。

 さて、建物の揺れを測ることは、いろいろなメリットがありますが、大きな地震の直後に役に立つような研究が最近進んでいます。
 例えば、地震が起きた後、全壊したり大きく損傷したりした建物は、誰が見ても、もうそこには住めないことはわかりますが、大きなビルなどで、見た目それほどの被害を受けているようには見えないといった場合、そのまま使い続けても大丈夫かと迷うことがあります。
 熊本地震の時にも、市町村の庁舎をそのまま使い続けていいか、学校の建物を避難所として使っていいかどうか問題になる場面がたくさんありました。それを判定するのは建築や耐震の専門家(技術者)なのですが、もともとそんな専門家はたくさんいませんし、地震の規模が大きければ大きいほど人手不足が深刻になります。南海トラフ巨大地震の直後には、とにかく急いで判定してほしいのに、実際には膨大な被災建物を判定をする人が全然足りないという場面が予想されます。
 そこで飛田さんたちは、建物にあらかじめ複数のセンサーを設置しておいて、地震が起きた後、その揺れの強さや特徴から、建物のどの部分がどの程度の損傷を受けたか自動的に推定するようなしくみができないかと研究しているそうです。
 将来、センサーの値段が十分安くなり、そのデータから建物の損傷を推定するシステムの精度が上がれば、実現の可能性があるということです。飛田さんのお話では、将来それを判定するのは、きっと人工知能=AIになるだろうということで、こんなふうにAIが人間の仕事を奪ってくれるなら大歓迎だと、私は思いました。

 今回も、会場から「その新しいシステムは鉄筋コンクリートの建物や木造の建物にも使えるのか?」や、「地震が起きた後に建物に取り付けても効果が期待できるか」などたくさんの質問がでて盛り上がりました。飛田さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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