第71回げんさいカフェを開催しました

「糸魚川大火の教訓と今後の市街地火災対策」

ゲスト:都市工学者 廣井 悠さん
   (東京大学大学院工学系研究科准教授/名古屋大学減災連携研究センター客員准教授)

日時:2017年4月10日(月)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 去年12月に発生した糸魚川大火のニュースに私たちも驚かされましたが、火災を専門に研究している都市工学者の廣井さんにとっても、この大火、いろいろな驚きがあったのだそうです。
 地震が起きていない時(平常時)の都市大火は、我が国では実に1976年の酒田大火以降ずっと起きていなかったということで、今回の大火は40年ぶりの出来事だったそうです。
 日本の常備消防の体制は1980年くらいまでに急速に充実し、消防技術や都市の延焼防止対策もそれなりに進んできたため、専門の研究者の間にさえ「もう地震以外では都市大火は起きないのではないか」という楽観論があったのだそうです。ところが、今回の糸魚川大火は、そんな考えが甘かったことを教えてくれました。

 火災の当日は強い南風が吹いていました。ラーメン店から出火した火事は、風に煽られて北側に燃え広がり、結局144棟が焼失。焼失面積は約4万平方メートルに及びました。
 大火のあと現場に10回近くも通い、さまざまな面から調査をした廣井さんは、「飛び火」が焼失範囲を拡大させたと話します。
 実は、燃え広がった市街地には、幅10メートルから12メートルの道路が東西方向に2本も走っており、本来ならそこで焼け止まってもおかしくなかったのです。しかし実際には、その道路を越えて海沿いの国道付近まで燃え広がってしまいました。その原因は「飛び火」でした。これまでの調査では、10件程度の「飛び火」が発生している可能性が示唆されたということです。
 結果からみればこうした「飛び火」に備えて、風下にも消防力を配置し、飛んできた火をその都度消していくという「飛び火警戒」が必要だった可能性もありますが、住民の多くはすでに避難しており、規模の小さい地元の消防本部は火災対応で精いっぱいだったようです。
 しかし結局この「飛び火」によって、時間差はありながらも同時多発火災のようになってしまったことが、これほど大きな被害になってしまった要因と、廣井さんはみているそうです。

 今回の糸魚川大火は、強風下で火災が同時多発することの怖しさを、改めて教えてくれたわけですが、まさに風が強い日に大地震が起きれば、被災地では同じことが起きます。南海トラフ巨大地震が心配されるこの地域の住民としては気になりますね。廣井さんによると、いま国や地方自治体が行っている地震の被害想定には「飛び火」による火災の規模拡大が、精緻に計算されているとはいえないということなのです。

 カフェの途中、廣井さんは、もし将来首都直下地震や南海トラフ巨大地震が起きたら、火災被害はどのくらいになると思いますかと、会場の参加者の皆さんに問いかけました。関東大震災くらい(犠牲者約10万人)か、阪神・淡路大震災くらい(火災の犠牲者約600人)か、それとももっと少ないか、あるいはもっと多いか。

 会場の皆さんの答えはさまざまでしたが、廣井さんは「関東大震災と阪神・淡路大震災の間のどこか」という考えだそうです。しかしながら、もっとシニアの都市防災の研究者は、関東大震災と同じくらいと考えている人もいるそうです。
 その理由は、94年前の関東地震の頃に比べて現代の都市は、
①地震後の出火件数の面では、たぶん多くなっているだろう。
②延焼=燃え広がる速さという面では、少し遅くなっているくらいだろう。
③消防力という面では、かなり進歩しているとはいえ、同時多発火災に対応できるほどではないだろう。
④避難という面では、人口が増えている上に、市街地火災からの避難もだいぶ下手になっている可能性もあるだろう。
ということで、総合的に見ると、(避難先の被服廠跡が火災旋風に襲われて4万人以上が犠牲になった)関東大震災と同規模の被災事例が発生するかどうかはともかく、かなりの火災被害が心配されるということでした。

 今回の糸井川大火は、都市大火の危険はまだまだ存在すること(同じくらいの住宅密集度で同じくらいの風が吹いていれば、またどこかで起きる可能性はある)、「飛び火」によっていまの地震被害予測を上回る火災被害が起こりうること、どのタイミングで避難を始めればいいか、その判断は難しく、自治体の防災対策の新たな課題となる、ということを私たちは知ることができました。
 廣井さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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