第69回げんさいカフェを開催しました

「地域密着型減災シンクタンクって何?」

ゲスト:地震学者 新井 伸夫さん
   (名古屋大学減災連携研究センター特任教授)

日時:2017年2月8日(水)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 今回のテーマは、名古屋大学が西三河地区の市町村や企業と連携して進めている「地域密着型減災シンクタンク構想」。その中心となっている研究者・新井伸夫さんにゲストに来ていただきました。
 このシンクタンク作りは、国の科学技術関係の予算を重点的に配分するSIP=戦略的イノベーション創造プログラムの対象課題の一つとして5年計画で進められている研究計画なのだそうです。

 「シンクタンク」という言葉を辞書で引くと「種々の分野の専門家を集め、政策決定や戦略の基礎研究などを行う組織。頭脳集団。」とありました。なるほど、では地域密着型減災シンクタンクは何をするのか?と新井さんに聞くと「将来起きるであろう巨大地震による被害を少しでも少なくするために、あらかじめ地域の課題を解決しておくことを目的にした取り組み」なのだそうです。そんなシンクタンクを、西三河をモデル地域にして作ってみようという研究なのだそうです。

 実はふだん我々のもとには、電気は電力会社、ガスはガス会社、水道は地方自治体がそれぞれ供給してくれますね。道路も国道は国、県道は県、市町村道は市町村がそれぞれ管理してくれています。そうやってバラバラでも平常時はそれでうまく行っているのです。
 ところがいざ巨大災害が起きた時には、そうはいきません。例えば、各市町村は、災害時に優先的に交通を確保する「緊急輸送路」を指定していますが、それぞれの市町村が指定している道路を隣の市町村も同様に指定しているとは限りません。ですからいざという時、緊急物資を運ぼうとしたら、その市町村の境までは行けたけれども、その先の道路が通行止めになっているということも起こり得るのです。

 また被災した工場からすれば、水がないと水冷の自家発電機は動きませんし、電気が止まるとポンプが止まり工場の水の供給ができなくなることもあります。それぞれのライフラインの企業や管理者が連携をとっていかないと、復旧が思いのほか遅れてしまうことも考えられます。

 そういう地域の課題は、それぞれの地区によって異なりますから、あらかじめその地域でシンクタンクを作っておいて、大災害が起きる前に話し合っておくということが、この研究のねらいだということです。

 3年目に入った研究では、これまでに、西三河の9市1町の副市長、副町長さんが名古屋大学減災連携研究センターに集合して、巨大な地図を見ながらワークショップを実施したり、企業の防災担当者に参加してもらってのワークショップを開いたしたりしてきました。
 大災害時に、市町村から県へ、県から国へと「上に報告」するシステムは整っているのですが、意外に、隣の市町村へと「横に連絡」するシステムや習慣はないんですね。
 また企業もふだんお隣の工場が何をしているのかあまり知らないというのが普通で、こういう機会に何度も会って、互いの防災上の課題を知り合い、解決策を語り合うことで、いわゆる「顔の見える関係」ができはじめいるのは非常に大きな財産になります。その橋渡しが地域密着型シンクタンクの大きな役割といえそうです。

 またこの研究の一環で、愛知県碧南市の工業地帯で、スマホのアプリを使った災害時情報収集訓練を実施したそうです。工場稼働中に地震が起きたという想定で、訓練の参加者が、自分のスマホで周囲の写真をとったり、ボイスメモで被害状況をリポートしたりすることで、その地域全体の被害状況が一つの地図上に詳細に表示されるという仕組みだそうです。
 実用化されれば、大きな役に立ちそうですね。

 会場の参加者のみなさんからは、いざという時に地域で組織を超えて連携しないといけないという当たり前のことが、できてこなかったのか、という質問がでて、新井さんは「やはり6年前の東日本大震災のような超広域災害に対しては従来の枠組みではうまくいかないことが身にしみたからではないか。なかなか被害状況の全体像がつかめなかったり、復興が遅れてしまったりしたという苦い経験が、いまこういう取り組みに繋がっていると思います。」と答えていました。新井さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

This entry was posted in お知らせ, げんさいカフェ. Bookmark the permalink. Both comments and trackbacks are currently closed.