第68回げんさいカフェを開催しました

「大震法の見直しを考える」

ゲスト:地球物理学者 鷺谷 威さん
   (名古屋大学減災連携研究センター教授)

日時:2017年1月11日(水)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

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 今回のカフェでは、いま見直しが議論になっている大震法=大規模地震対策特別措置法をテーマにしました。
 鷺谷さんはまず、この法律の制定の経緯からお話くださいました。
 この法律は、いまから40年近く前の1978年に制定されました。当時、駿河湾沖を震源とするM8クラスの地震(東海地震)が差し迫っているという学説が発表され、それが社会や政治を動かして、地震防災対策を定めたこの法律ができたのです。
 大震法の大きな特徴は「地震予知のための観測体制を作り、もし予知できた場合には総理大臣が警戒宣言を発表する」というしくみをもっていることです。この法律に基づいて、いまも気象庁が、24時間体制で東海地域の観測をしており、地震の前兆現象が起きないか監視しています。地震予知を前提にした法律は、世界でもおそらくこの大震法だけだろう、と鷺谷さんはおっしゃいます。
 もし警戒宣言が出されると、新幹線を始めとする公共交通機関はすべてストップ、デパートなども休業になります。津波危険地域や土砂災害危険地域の住民は避難をしなければなりません。指示に従わなかった場合の罰則まで設けられています。
 鷺谷さんは、ここに大きな疑問をもっているそうです。最近の地震研究でますます明らかになっているのは、いまの科学ではまだ実用的な地震予知は不可能であるということ。それなのに大震法が決めている警戒宣言の強制力は、地震予知の科学的根拠の薄弱さに比べて厳しすぎるというのです。
 そして、警戒宣言を出したあと、数日間の間に予想通りの場所と規模で東海地震が起きるとは限らず、そうでなかった時に、いつどうやって警戒宣言を解除するかも大問題です。
 
 大震法見直しの論議の中に、起きるのは東海地震だけとは限らない、東南海、南海地震の震源域を含む「南海トラフ巨大地震」を想定しなければならないという国の方針を受けて、いっそのこと「南海トラフ巨大地震」を想定した新しい法律にするべきだという意見もあるそうです。
 もしそれが現在の大震法と同じような「予知できた時には警戒宣言」というしくみであったら、混乱はさらに大きくなると、鷺谷さんはいいます。
 
 予知→警戒宣言というしくみを除けば、大震法の決めている防災対策については、他の災害対策基本法や、地震防災対策特別措置法など法律で十分カバーできるので、この際、大震法を廃止したらどうかという意見も、地震学者らの間であり、日本地震学会では、去年からそれを討論するシンポジウムを開いたり、学会のニュースレターで意見交換をしたりしているそうです。

 いまの東海地震予知観測体制は、巨大地震の直前には前兆すべりという現象が起き、それを高感度の歪計(ひずみけい)を使えば感知できるという仮説に基づいてつくられていますが、地殻変動が専門の鷺谷さんの意見は、必ずしもそうとは限らないということです。この仮説の根拠として、1944年の昭和の東南海地震のときに静岡県掛川市付近で直前の地殻変動が観測できたということが言われているが、その後の研究で、必ずしもそれが正しいデータとは言えなくなっている。地震の前に必ず前兆すべりが起きるかどうかわからないし、仮にそれが観測できて、しかも巨大地震の前兆であると判断できるかどうかはわからないというわけですね。

 会場の参加者からは「いまの科学では実用的な地震予知ができない」という率直なお話に驚きの声が。「大震法は廃止したほうがいいということはわかるが、もし廃止したその日に東海地震がおきたらどうするのか」とか「東海地震予知はやめましたと言われると、なにか国から国民がほったらかしにされたような気がする」というような意見や質問がでました。鷺谷さんは「できないかもしれないことをできるという方が良くない、薄弱な根拠で強い措置をとるしくみは矛盾している」と答えていました。

 この問題、今年の地震防災をめぐるホットな話題になりそうです。げんさいカフェでも継続的に注目していきたいと思います。鷺谷さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

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→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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