第45回げんさいカフェを開催しました

「微気圧振動で地震・津波の何がわかるのか」

地震学者 新井 伸夫さん
名古屋大学減災連携研究センター特任教授

企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との
共催で実施しています。

 

 微気圧振動というのは、精密な測定装置でなければ観測できない、わずかな気圧の変化のこと。新井さんはこれを研究していらっしゃいます。

 実は、世界各地にこの微気圧振動の観測網が整備されているのですが、その目的は核実験の監視なのだそうです。例えば地下核実験が行われると、その場所の地面が大きく上下に動き、上の空気を振動させるため微気圧振動が発生します。このように大規模な地学現象は必ずと言ってもいいほど微気圧振動を発生させるということです。
 こうした微気圧振動は、波長が長く、遠くまで減衰せずに届きます。波長があまりに長いため、空気の振動でありながら人間の耳には聞こえません。こうしたことから新井さんは自分の研究のことを「聞こえない音を聞く研究です」と表現されました。

 さて、この微気圧振動の研究は防災にどう役に立つのでしょうか?
 その可能性を示すのが、約4年前の東日本大震災の時に観測された微気圧振動でした。岩手県奥州市水沢区にある国立天文台の観測所で、地震発生7分後頃から約20分間 にわたって津波による海面変動が原因とみられる微気圧振動が観測されていました。ここでは地球の重力を精密に測定する際に気圧の影響を取り除くため、高精度の気圧計で気圧を測定していましたが、その波形を見ると津波が発生した沖合の海面の変化とそっくりの波形を記録していたということです。
 微気圧振動は音速(マッハ1)で伝わるため、もし微気圧振動の観測点を海岸線にそって配置していれば、沖合で津波が発生したことをいち早く知ることができる可能性があるわけです。

 自然に起きる気圧の変動と津波による微気圧振動を区別することの難しさや、大きな津波であれば必ず明瞭な微気圧変動が発生するかどうかがまだわからないことなど、今後さらに解明すべき点は数々ありますが、観測機器の設置費用が比較的安いことや、メインテナンスが容易なことなどの利点を生かして、将来は微気圧振動観測網による津波の早期検知が可能になる時代が来るのかもしれませんね。また大規模な雪崩や土石流などの早期検知にも役立つと考えられるので、そうした方面の研究も期待されます。

 新井さんは千葉県いすみ市に設置されている核実験探知のための微気圧振動観測網の観測装置についても詳しく紹介してくださいました。 局地的な風の影響を避けるため森の中に作られた観測点では、細いパイプを放射状に広げ、その先端が砂利の中に埋められています。こうした構造になっているのは、風などによるノイズを極力減らし、波長の長い微気圧振動だけをしっかりととらえるためだそうです。

 会場からは、今回もたくさんの質問が出て、対話が盛り上がりました。新井さん、参加者の皆さんありがとうございました。

日時:2015年2月4日(水)18:00〜19:30
名古屋大学減災館 減災ギャラリー

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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