第44回げんさいカフェを開催しました

シリーズ減災温故知新④「阪神・淡路大震災から20年で、考えなければならないこと」

科学コミュニケーター 隈本 邦彦さん
名古屋大学減災連携研究センター客員教授

企画: 隈本 邦彦
ファシリテータ: 阪本 真由美
   (名古屋大学減災連携研究センター特任准教授)

げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との
共催で実施しています。


今回は趣向を変えて、げんさいカフェ店主の私がお話をさせていただきました。

阪神・淡路大震災から20年で考えなければならないこととして、私は「あの震災のほんとうの教訓は何だったのか」ということをあげたいと思います。

阪神・淡路大震災の犠牲者の死亡推定時刻をみると、全体の81%が当日の午前6時までに亡くなっています。つまり午前5時46分の地震発生から14分以内に亡くなっているのです。多くの人が自宅で寝ている時間帯ですから、この人たちは自宅が倒壊して下敷きになって亡くなったと考えられます。つまり「自宅の耐震性が生死を分けた」のです。このことについては震災後の各社の報道で、詳しく伝えられたのでご存知の方も多いと思います。

しかしほとんど報道されなかった事実がありました。

神戸市中央区のうち震度7で揺れたと考えられた範囲の900軒余の建物すべてを調べた調査の結果です。その内容は震災から半年後の1995年7月に公表された「阪神・淡路大震災建築震災調査委員会中間報告」に盛り込まれていました。

それによると震度7の揺れに対して昭和46年以前に建てられた建物では約60%が中破以上に被害(倒壊・崩壊、大破、中破)を受けているのに対し、現在の耐震基準で建てられた昭和57年以降に建った建物で中破以上の被害を受けたのはわずか13%でした。

つまり「現在の耐震基準を満たした建物は震度7の揺れに見舞われても9割がた大丈夫で住民の命は守られる」ということがわかったのです。

耐震基準は、その建物を建てた時点の基準を満たしていれば合法です。つまり建物を建てた後、世の中の耐震基準が厳しくなっても、それにあわせて耐震補強するかどうかは建物の持ち主に任されているのです。

ということは、つまり「阪神・淡路大震災で亡くなった人の多くは自宅の耐震性が最新の耐震基準を満たしていないのに、それに気づかないか、気づいていても耐震補強に踏み切れなかった人」の可能性が高いことになります。

マス・メディアは、この事実を教訓として伝えることが必要でした。しかしそれは“震災の犠牲者の生前の行動を批判する”ように聞こえるおそれがあるため、各マス・メディアはあまりそれを強調して伝えません。例えば当時の新聞記事を見ると阪神・淡路大震災建築震災調査会の中間報告を伝える際に「現在の耐震基準を満たしている建物には被害が少なかったので、現行の耐震基準を変える必要がないことがわかった」という伝え方をしていました。この伝え方では、被災地以外の人たちに耐震改修を促す力はありませんよね。

私としては、あの震災から20年たった今、災害報道のモードを変えるべきだと思います。たとえ被災者に対して厳しく聞こえるとしても、“死者を鞭打つ報道だ”というそしりを恐れず、勇気をもって「ほんとうの教訓」を伝えてほしい、そう願っています。

今回もたくさんの参加者で質疑応答も盛り上がりました。参加者の皆さん、ファシリテーターを務めてくださった阪本真由美さん、ありがとうございました。

日時:2015年1月7日(水)18:00〜19:30
名古屋大学減災館 減災ギャラリー

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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