第41回げんさいカフェを開催しました

シリーズ減災温故知新①「伊勢湾台風から55年で、考えなければならないこと」

河川工学者 辻本 哲郎 さん
名古屋大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻教授

企画・ファシリテータ:隈本邦彦
  (名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との
共催で実施しています。


 げんさいカフェでは、今回から、過去の大災害を振り返り、これからの減災を考える「減災温故知新」のシリーズを始めます。1回目の今回は55年前の9月末に起きた伊勢湾台風を振り返って今後の水防対策を考えます。ゲストは河川工学がご専門の辻本哲郎さん、この地域の防災のご意見番でもいらっしゃいます。
 
 辻本さんは、まず55年前の伊勢湾台風の時に観測された、気圧と海面の高さを比較したグラフを紹介。台風が接近して気圧が急激に下がると、海面が急峻なカーブを描いて上昇している様子がはっきりとわかります。台風による高潮は、気圧が下がることに伴う「吸い上げ効果」と、強い風によって岸に海水が吹き寄せられる「吹き寄せ効果」の両方が相まって高くなるそうです。このときの最高の潮位は3.89mまで上がりました。伊勢湾台風による犠牲者は5000人余。多くはこの高潮に飲み込まれた被害です。
 台風の通過後も濃尾平野の広大な海抜ゼロメートル地帯では長い間、水が引かず、被害拡大と復興の大幅な遅れにつながりました。当時は、しかたなく別の場所に「疎開」をする人も数多くいたということです。

 さて、伊勢湾台風後のこの地域の防災対策は、伊勢湾台風がもう一度来ても大丈夫であることを目標にハード、ソフトの両面で行われてきました。
 しかしこの55年間に進んだ地盤沈下や都市化の影響で、ゼロメートル地帯の面積も、そこに住んでいる人の人口も増えています。(336㎢、90万人)つまり当時よりも災害の規模が大きくする要素が恐れが増えているのです。
 また当時は、貯木場にあった大量の材木が高潮に流されて家々を壊すなど被害を拡大しましたが、いまは材木が少なくなった代わりに、港に置かれたコンテナや、船積み直前の自動車などが、いざというときに高潮の被害を拡大する危険性が指摘されています。災害は形を変えて私たちを襲うことになります。

 辻本さんは、国土交通省中部地方整備局の呼びかけで、行政や警察、企業団体など約50機関が参加して2008年にスタートした「東海ネーデルランド高潮洪水地域協議会」のメンバー。(ネーデルランドというのはオランダの別名ですが、もともと「低い土地」という意味なのだそうです)頭文字をとった略称はTNT協議会。TNT火薬のように、防災対策の起爆剤になることを意識した命名だとか。(笑)
 TNT協議会では、スーパー伊勢湾台風=つまり「日本列島に上陸した最も強い台風の一つ室戸台風が、ちょうど伊勢湾台風と同じコースをたどった場合」という起こりうる最悪の事態を想定し、その台風がこの地域を襲うという情報が1.5日(36時間)に得られたとして、各機関がどのような災害対応が取れるか危機管理計画を検討します。
 年1,2回の全体の協議会とは別に、分科会や実務担当者会議を何度も開いて、危機管理計画を練り上げていきます。

 高潮に襲われて、道路や鉄道が使えなくなった後には、避難することもままなりません。人口の多い地域であればあるほど、早めの避難や対応が必要になるのです。辻本さんによると何度もシミュレーションを繰り返すうちに、当初は空振りを恐れて直前にしか行動をしないと考えていた協議会のメンバーも、できるだけ早めの行動の必要性を理解するようになったということでした。

 55年前に比べ、ゼロメートル地帯は広がり、極端な気象現象も多くなっていますが、一方で、防潮堤の建設は進み、なんといっても台風の予報、雨量の予測技術が進歩しています。そしてこうした知恵を生かしながら、過去の災害の教訓から真摯に学ぶことによって、将来の災害を減らすことができるはずというのが、辻本さんたちの活動のメッセージだと、受け止めました。

今回も会場からさまざまな質問が出て、時間が足りなくなるほど盛り上がりました。参加者の皆さん、辻本さん、ありがとうございました。

日時:2014年10月1日(水)18:00〜19:30
名古屋大学減災館 減災ギャラリー

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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