第114回げんさいカフェ(オンライン)を開催しました

シリーズ東日本大震災から10年⑤
古地震・古津波研究から予測する巨大地震

ゲスト:古地震学者 宍倉 正展 さん
(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門 海溝型地震履歴研究グループ長/減災連携研究センター客員教授)

日時:2021年 5月10日(月)18:00~19:30
   ※5月10日は【地質の日】
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 東日本大震災の前と後で大きく変わったものの一つが、古地震、古津波の研究の重要性への認識です。
 東日本大震災とほぼ同じ規模の巨大津波が、約1100年前の貞観地震で起きていたことは震災前にはあまり注目されず、十分な備えができなかったことへの反省です。やはり古い地震や津波についての研究をしっかりしておかないと、と多くの人が思うようになりました。

 しかし地震計などを使った近代的な地震観測が行われるようになったのは、この100年余のこと。ということは、それより昔に起きた地震について知るためには、それ以外の方法が必要です。
 古文書の記録などは、かなり参考になります。とはいえ、しっかりした記録が残っているのは江戸時代以降が中心で、戦国時代などはあまり残っていませんし、それ以前についても都があった近畿以外の情報はほとんど手に入りません。
 そんな中で、大きな手がかりになるのが、地形や地質の研究から得られる情報です。
 そこで、今回のカフェでは、地形や地質から昔の地震を知る研究を長年やってこられた産業技術総合研究所=産総研の宍倉正展さんにゲストに来ていただきました。

 宍倉さんから、地形や地質から昔の地震を知る手法のいくつかを教えていただきました。
 まずは、地震の活断層を実際に掘って調べてみるという方法。
 例えば、今から何千年前くらいのところで地層が食い違っているから、ちょうどその頃に地震が起きたらしいとわかる、という方法です。いつ頃かというのは、その地層に含まれる放射性炭素を調べて推定するのだそうです。考古学の方法と同じですね。
 また過去に液状化が起きた痕跡が残っている場合もあるそうです。地震で液状化が起きると、いろんなところに砂が吹き出す噴砂現象がおきますね。その噴砂の痕跡のあたりの地層を調べると「いつ頃に(平野が液状化を起こすくらい)大きな地震が起きた」というのがわかるというわけです。
 そしてもう一つが、津波堆積物の痕跡を調べることです。
 大地震で津波が陸地に押し寄せると、海の砂が一緒に内陸の平野まで運ばれます。すると津波が引いた後も、海の砂がそのあたり一帯に残ってしまうのです。その後、その場所に人の手が加わらなければ、そのまま地面の下に「津波の痕跡」が残るというわけです。
 約1100年前の貞観地震で、東北地方太平洋沿岸に大きな津波が来ていたらしいということは『日本三代実録』という古文書に短い記述がありましたが、1990年ごろ以降、東北大学や宍倉さんたち産総研のグループなどが、仙台平野や石巻平野で津波堆積物の痕跡を調べて、どれくらいの規模の津波だったかを確かめる研究を進めていました。
 宍倉さんたちの研究では、石巻平野のかなり奥、海岸線から3〜4キロ奥の方まで津波が襲っていたことがわかり、仙台平野で行われた調査結果などもあわせて、震源のモデルやマグニチュードの推定も行われていました。これらの研究は文部科学省のプロジェクトとして進められていて、大震災の前の年、2010年の春に国の地震調査研究推進本部に報告書があがっていたのだそうです。そこから1年ほどかけて、まさに巨大地震の予測に実際に役立てられようとした矢先に、巨大地震が来てしまったということです。
 もちろんこういう研究成果が認知されてから、実際の津波対策や政策に生かされるまでには時間がかかるので、地震前にどれだけ備えができていたかわかりませんが、宍倉さんによると、こういう地質学的な古地震、古津波研究がもうすこし重要視されていたら、被害はもっと減らすことができたのではないかという思いがあるということです。

 宍倉さんは、海岸にいる生物の痕跡を調べて、過去の地震による地殻変動を推定する研究も進めていらっしゃいます。
 海岸の岩場などに行くと、フジツボなどのいろんな生物が岩にくっついているのを見かけますね。
 宍倉さんはその中でもヤッコカンザシという生物に注目しました。
 ヤッコカンザシは、潮の満ち干きのちょうど真ん中あたり=平均海面付近=に暮らすという性質を持つ生き物で、それが死んだ後の殻がくっついている場所がちょうどその時代の海面であると推定できるのだそうです。そこで、その痕跡を調べることで、過去に大地震が起きた場所が、その後隆起したのか沈降したのか、つまり地震にともなう地殻変動の歴史がわかるということです。
 三浦半島や房総半島での宍倉さんご自身の調査結果を見せていただきましたが、いまの海面の高さより高いところに1923年の関東地震前の海面の痕跡が、さらにそれよりも高いところに1703年の元禄地震の時の痕跡を見つけることができるそうです。
 こうして、たくさんの海岸の岩の痕跡を丁寧に調べる、まさに足で稼ぐ研究によって、古い地震で起きた地殻変動の様子を調べることができ、その地震の規模なども推定できるということです。
 最近ではGPS観測網をつかって、地殻変動が正確に観測できますが、そういう観測網ができたのはここ20年のこと。何百年何千年に一度しか起きない巨大地震の痕跡をしっかり捕まえるには、このような地道な努力が必要なのですね。
 ちなみに今回のカフェでは、目からウロコの情報を教えてきただきました。
 ヤッコカンザシの学名はPomatoleios kraussii。この学名の後半部分のkraussiiの文字の順番を入れ替えると、なんとsisikuraになるのです! 過去の地震について私たちに貴重な情報を提供してくれる生物の名前が、それを研究する第一人者の名字と一致するとは!推理小説に登場してきそうな“アナグラム”に、参加者の皆さんも驚かれたたことでしょう。

 参加者のみなさん、宍倉さん、ありがとうございました。


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