第112回げんさいカフェ(オンライン)を開催しました

シリーズ東日本大震災から10年③
東日本大震災から10年ー必ずやってくる南海トラフ地震での地盤災害を考える
(減災館第30回特別企画展「東日本大震災から10年ー必ずやってくる南海トラフ地震にどう備えるか」との連携企画)

ゲスト:地盤工学者 野田 利弘 さん
   (名古屋大学減災連携研究センター副センター長・教授)

日時:2021年 3月1日(月)18:00~19:30
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 東日本大震災から10年が経ちましたが、あの震災の被害についての研究はいまもまだ続けられています。それが今後の防災・減災につながるからです。
 今回のゲストで、地盤災害がご専門の、野田利弘さんもそうした研究をされているうちの1人です。
 3.11では、千葉県浦安市で大きな液状化被害が出ましたが、震源からかなり遠い場所で、なぜあれほど大きな液状化被害となってしまったのか。しかも同じ浦安の中でも、被害がひどかった地域とそれほどでもなかった地域があったのはなぜか、などの疑問点がまだ残っています。

 これまでの調査によれば、被害のひどかった浦安の「海側の地域」では、表層の砂層の地下に50メートルほどの柔らかい粘土層があったのに対して、被害がそれほどでもなかった「陸側の地域」では地下の柔らかい粘土層が10メートル程度しかなかったことがわかっています。
 この違いが表層の砂層の液状化被害の差にどう影響したのでしょうか?
 野田さんたちが行っているコンピューターを使った数値実験で、しだいにそのメカニズムがわかってきているそうです。

 千葉県浦安市のように陸側から海側にかけて地下の柔らかい粘土層が分厚くなり、その上に砂層がほぼ水平に載っているような地盤(断面で見ると右に行くにつれ粘土層が厚くなるような地形)のモデルを作り、3.11の日に東京・品川付近の深部で観測された地震動を入力して数値実験を行いました。その結果、地下からやってくる地震波(実体波)が柔らかい地盤に入ったところで増幅されるのに加え、柔らかい粘土層が厚くなる場所の辺りから新たに発生する地表面の揺れ(表面波)との間で複雑な干渉が起き、特定の場所の揺れが大きくなるという現象が再現されました。実際に液状化の被害が少なかった「陸側の地域」では揺れは小さく、被害の大きかった「海側の地域」の揺れは大きくなりました。
 他の数値実験でも、「比較的固い地盤の上に柔らかい粘土層が盆地状に存在するような地形」では、地下からの実体波と盆地端部から発生する表面波が複雑に干渉して、ある特定の場所で揺れが強くなるという現象が確認できたということです。例えば1985年のメキシコ地震など過去の地震でもこういう現象が実際に起きていたと考えられます。

 野田さんは、浦安のように、柔らかい粘土地盤が斜めに深くなっていく地形は、例えば濃尾平野の名古屋市の西側など全国各地いたるところにあり、そこで同じような地震の揺れが強くなる現象が起きてしまうと、上に造られた河川堤防や盛土などに悪影響を与えるのではないかと指摘しています。
 実際に、柔らかい粘土地盤の上の堤防が地震の揺れでどんなダメージを受けるかについての数値実験の結果も見せていただきましたが、名古屋市に広がる海抜ゼロメートル地帯に住む人たちにとっては、深刻です。巨大地震の時には津波が来る前に、目の前の河川の水が押し寄せてくることになりかねません。このため名古屋市では堤防の両肩に鉄の矢板を打ち込み、タイロッド(鋼製の棒)で繋いで強化するという堤防の強化策を実際に進めているということです。

 野田さんによると、現在の液状化危険度の判定は、その土地の地下水位の高さと緩い砂地盤かどうかで行われていますが、その下の柔らかい粘土層自体がどのように被害を受けるかや周辺地盤の地形がどのように影響するかについては十分考慮されていないそうです。
 その意味で、東日本大震災の浦安の被害から10年経って、得られたこのような最新の研究成果や知見を今後の液状化予測にも使っていかないといけないと思いました。

 今回もオンライン開催でしたが、170人の方が参加してくださり、たくさんのご質問をいただいて研究者と市民の対話ができました。野田さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

「げんさいスタジオ」(普通の小会議室)の様子




→ポスター(PDF)

→過去のげんさいカフェの様子はこちら

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