第107回げんさいカフェ(オンライン)を開催しました

人口減少社会での防災・減災

ゲスト:地理学者 岡本 耕平 さん
   (愛知大学文学部教授/
    名古屋大学大学院環境学研究科附属持続的共発展教育研究センター客員教授)

日時:2020年10月12日(月)18:00~19:30
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」との共催で実施しています。


 今回のカフェは、地理学者の岡本耕平さんに、人口減少時代の防災・減災をどうしていくかというお話を伺いました。
 少子高齢化が進んでいる日本では、2008年をピークに人口も減り始めています。
岡本さんにその理由を伺ってみましたが、たくさんある理由の1つに「第3次ベビーブームが予想に反して起きなかったこと」があるということでした。
 戦後すぐに、戦地から多数の男性が戻ってきて起きたベビーブーム。その約20年後に第2次ベビーブームが起きましたが、その子供世代による第3次ベビーブームは起きませんでした。岡本さんによると、厚生労働省は直前まで第3次ベビーブームが起きると予想していたそうです。
 しかし予想に反して第3次ブームは起きなかったのです。政府の少子化対策が後手後手にまわっていると言われるのはそのせいかもしれません。



 さて少子高齢化や人口減少が、経済や年金などの問題を引き起こすのがわかりますが、なぜそのことが、これからの防災・減災上の問題点になるのでしょうか。
 岡本さんによると、主に2つの問題点が考えられるということです。
 1つは、災害時に助ける人と助けられる人のバランス。その例として、岡本さんは2019年の東日本台風で、施設内に浸水したのに1人も死者が出なかった埼玉県の特別老人ホームの実例をあげました。ここの老人ホームでは、水害に備えてお年寄りを2階3階に避難させる計画でしたが、停電が起きてしまい、エレベーターが止まりました。しかし1人のお年寄りを数人がかりで持ち上げて事なきを得たということです。でも少子高齢化がこれ以上進んで、助ける人と助けられる人のバランスが崩れると、こういう良い話がなくなってしまう恐れがあるということでした。
 もう1つの問題は、全国的にはこれほど少子高齢化と人口減少が進んでいるのに、東京圏への一極集中が止まっていないということです。
 東京、神奈川、埼玉、千葉の4都県への人口流入は、ずっと続いていて、特に若い女性が東京圏に流入してそのままとどまるという傾向がもう数十年続いているそうです。このことは「地方では人口が減って高齢化が進んだことで災害に弱くなる」一方で、東京圏では逆に「一極集中によって災害に弱くなる」現象が起きているということです。
 一極集中した都市部は、災害に対して脆弱になります。
 都市部に流入した人たちが住むのは、どうしてもそれまで田んぼだったところとか山を切り開いて造成した土地ということになります。旧市街地には既に人が住んでいるわけですから、しかたないですよね。でも田んぼは水が付きやすい低地、つまり過去に水害にくりかえし見舞われた場所であることが多いし、山間部の造成地では土砂崩れが起きやすいという傾向があります。昔から人が住んでいる土地と言うのは、周りより少し高くなっているところなど、過去にあまり災害を受けなかった場所だということがよく言われます。
 カフェで岡本さんが出してくれたグラフを拝見すると、日本ではそういうデータをとりはじめた1960年以降、市街地の人口は増え続けているのですが、その面積もずっと増え続けています。つまり人口密度は逆に下がって「薄く広く」市街地が広がっているというわけです。そうやって市街地が広がることは、相対的に災害の起きやすい地域にたくさんの人が住むようになるということ。これから災害の危険は高まっていくということですね。


 ではどうすればいいのか?岡本さんに聞いてみたのですが、答えは残念なものでした。少子化対策と一極集中の是正というのは、政府がもう30年近くも取り組んできた課題で、それがそれほどの効果を発揮していないということは、やっぱり今後も駄目なんじゃないかということです。
 ただ解決策の可能性として、外国人材の活用という話がありました。
 いま日本では外国人研修生などの形で、若い世代の外国人がかなり住みはじめています。岡本さんは彼らを単なる労働力として扱うのではなく、尊厳を持った住民として受け入れ、日本語もしっかり学んでもらって、いざというときに助け合える存在になってもらうことが、必要なのではないかと話しておられました。
 そしてなんといっても災害への備え。現代人は、住んでいる地域の災害リスクが、昔の人たちより高いことを知り、早めの避難や備蓄などをすすめていくしかないのではないかと思ったカフェでした。
 岡本さん、オンラインで参加してくださった皆さん、ありがとうございました。


→ポスター(PDF)

→過去のげんさいカフェの様子はこちら

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