第26回げんさいカフェを開催しました

「濃尾平野のゼロメートル地帯の防災を考える」

地盤工学者 中井 健太郎さん
名古屋大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻准教授

企画・ファシリテータ:隈本邦彦
(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)



今回の対話のテーマは濃尾平野に広がる海抜ゼロメートル地帯の地震防災です。

地盤工学者の中井さんはまず、全国の400万人が海抜ゼロメートルに住んでいるという日本の現実を指摘しました。その中でも私たちの住む濃尾平野は、ゼロメートル地帯の面積が284平方kmと、関東平野や大阪平野を上回って全国で最も広い場所です。ゼロメートル地帯であることが、災害を大きくしたとして良く知られているのが1959年の伊勢湾台風による高潮被害です。場所によっては何カ月も水が引いてくれず、ポンプ排水に頼ったところも多かったそうです。

驚いたことに濃尾平野のゼロメートル地帯は、その後も拡大を続けました。伊勢湾台風当時180平方kmだった面積が、その後の40年間でほぼ1.5倍に広がったのです。それは高度成長期の地下水のくみ上げ過ぎが原因だったことが後にわかるのですが、当時は、地下水のくみ上げがほんとうに地盤沈下につながるかどうかをめぐって「科学論争」が起き、その論争が行われている間に事態がどんどん進行していったということです。

1974年に地下水くみ上げ規制が行われると地盤沈下は止まりました。ただ一度ゼロメートル以下になった土地が再び元に戻ることはなく、この地方で特別な防災対策が必要な地域が大きく広がってしまう結果になりました。

地盤沈下は河川堤防の機能を低下させるのだそうです。というのも、地盤が沈下すると河口に近い地域では相対的に河川の水位が高くなるためで、2001年の東海豪雨災害も、その影響があったと中井さんは指摘されていました。

カフェの参加者の中には、実際にゼロメートル地帯にお住まいの方もおられ、地震災害や津波に備えてどのような対策が可能か、真剣な質疑応答が行われました。昔の人の知恵である「輪中」の考え方を現代に取り入れる必要があるのではないかとの議論もありました。

最後に一つ。地下水くみ上げ規制を行うべきかどうかの「科学論争」をしているうちに事態が悪化してしまったという濃尾平野の歴史は、科学と社会の関係がどうあるべきかを考えるひとつの重要な材料となります。科学的に考えられる最悪の事態を想定して対策をとる「予防原則」にしたがって、災害に立ち向かう姿勢が私たちには必要なのではないかと改めて考えさせられました。

中井さん、カフェ参加者のみなさん、ありがとうございました。

(報告・隈本邦彦客員教授)

日時:2013年7月3日(水)18:00〜19:30
名古屋大学カフェフロンテ(環境総合館斜め前、本屋フロンテの2階。ダイニングフォレスト向かい)

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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