第100回記念げんさいカフェを開催しました

第100回記念げんさいカフェ
減災連携研究センタークラウドファンディング「伊勢湾台風から60年」との連携企画

伊勢湾台風ー60年目に考える教訓

ゲスト:河川工学者 田代 喬さん
   (名古屋大学減災連携研究センター副センター長・ライフライン地盤防災
    産学協同研究部門教授)
    伊勢湾台風体験者 竹中 敬一さん
   (元中部日本放送(CBC)テレビニュース課)

日時:2019年9月20日(金)18:00~19:30
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

ちょうど60年前の9月、伊勢湾台風が襲来、この地方に大きな被害を与えました。
同じ9月にげんさいカフェがちょうど100回目を迎えるのも何かのご縁ということで、今回は伊勢湾台風をテーマに選びました。60年の時を経て、あの災害の教訓が現在の災害報道や災害対策にどのように役立っているのかを考えてみました。
ゲストに来ていただいたのは、当時、中部日本放送(CBC)のテレビニュース課で災害報道の最前線におられた竹中敬一さんと、河川工学者の田代喬さんです。
 
まずは、台風上陸の夜に撮影された1枚の写真をもとに竹中さんの体験談を伺いました。CBCの玄関前でテレビ生中継を試みていたところを写したものです。

左から2番目の白いシャツ姿の男性が竹中さん。当時はまだラジオがメディアの主流で、テレビニュース課は1日数本のニュースを流すだけの、のんびりした職場だったそうです。竹中さん自身も、そこに配属されたばかりの25歳でしたが、何がなんだかわからないうちに、未曽有の大災害の報道に携わることになったということでした。

台風被害の全体像が分かったのは翌朝のこと。
愛知県の桑原知事(当時)が自衛隊のヘリで上空を飛び、その様子を記者会見で語ったことで、未曽有の高潮被害が起きていたことが判明したのだそうです。ラジオ・テレビでその会見が放送され、それがようやく県民にも伝わりました。

竹中さんが今でも忘れられないのが、CBCヘリが撮影した木曽岬付近の映像を見た時のショックだそうです。
「フイルムの現像が終わって試写してみると、高潮に覆われた海面にたくさんの材木が浮かんでいるように見えました。しかし低空に降りてみると、それは実はおびただしい数のご遺体だったのです」
竹中さんは慌ててそのシーンを自主的にカットして放送したということです。
しかし一連の台風報道では、一部むごい映像が全国放送されたこともあり、当時、“テレビでそのような映像を流すべきか“をめぐって、有名な評論家や作家らを巻き込む大論争となったそうです。
災害の残酷さをどこまで報じるべきかという議論は、60年経ったいまでも結論が出ていない現代的な課題でもあります。

また竹中さんが語った「台風襲来の夜、必死で市内の状況を中継放送したけれども、停電によって多くの視聴者はそれを見ることができなかった」という証言も貴重でした。当時、電池式のトランジスタラジオはまだあまり普及していなかったため、ラジオも含め停電によってまったく情報が得られなかった被災者が多かったのです。
このような「停電による被災地の情報不足」は、8年前の東日本大震災でも、今年の台風15号の千葉県でも起きました。いまだ解決されていない課題です。

今回のカフェでは、竹中さんの先輩の中継カメラマン山崎悦邇さんにも、インタビュー映像で参加いただきました。その中では、毎朝、被災地に行く時、中継車と電源車の屋根に大量の水と乾パンを積んで行き被災住民に喜ばれたというエピソードが紹介されました。
マス・メディアの被災地での取材マナーや、いざという時、取材と救助のどちらを優先するのかということも、災害のたびにいまも議論が続いている重要課題ですね。

田代さんからは、河川工学の専門家からみて伊勢湾台風が「最悪の台風」だったと言えるかどうかについてお話いただきました。
まず、台風の進路としては、伊勢湾台風は伊勢湾の潮位が最も高くなるような進路(湾の西側)をたどったということで「最悪だった」と言えそうです。
しかしそれ以外の要素、例えば△台風の規模(気圧・風速)や、△天文潮位との関係(台風接近のタイミングと満潮が一致したかどうか)、△河川洪水との関係(高潮と河川水位が最も高くなる時期が一致したかどうか)という点では最悪だったとは言い切れず、将来もっと悪いシナリオもあり得るということでした。
また60年前には貯木場の大量の材木が被害拡大を招いたと言われていますが、現代ではそれにかわって、港にあるコンテナや車が同じような被害拡大の要素になることが考えられるということです。
改めて、最悪の事態に備えることの重要性を教えていただいた気がします。

今回もたくさんの参加者の皆さんにご参加いただきました。
げんさいカフェが100回続けられたのは、こうしていつも会場に集まってくださる皆さんと、陰で支えてくれるスタッフの皆さんのおかげだと感謝しています。
竹中さん、田代さんもありがとうございました。



→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

This entry was posted in お知らせ, げんさいカフェ. Bookmark the permalink. Both comments and trackbacks are currently closed.