第95回げんさいカフェを開催しました

実験で確かめるビルの耐震性

ゲスト:耐震工学者 長江 拓也さん
   (名古屋大学減災連携研究センター准教授)

日時:2019年4月8日(月)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 防災科学技術研究所の兵庫耐震工学研究センターには、「Eディフェンス」と呼ばれる超大型の三次元振動破壊実験施設があり、それこそ、鉄筋コンクリートのビルが壊れるまで揺らしてその耐震性を確かめる実験などが行われています。今回のカフェは、このEディフェンスでの実験に詳しい長江拓也さんがゲスト。研究の最前線をお話しいただきました。

 1995年の阪神・淡路大震災で、古い鉄筋コンクリートの4階建ての学校の校舎が壊れ、1階の部分が完全に潰れてしまうという被害が出ました。長江さんによると、このことは耐震工学の研究者にとっても大きな衝撃だったのだそうです。
 というのも午前5時46分のあの地震発生が、もしあと3時間遅かったら、たくさんの子供たちが犠牲になっていたと考えられるからです。
 これを受けて国は、全国の学校の校舎の耐震改修工事を急ピッチで行いました。しかし、そうして全国的に対策を急いだが故に、一つ一つの耐震補強工事は、耐震基準をぎりぎりクリアするような補強が行われることが多かったようです。そのためもし、想定を上回るような強い地震に見舞われた時には、古い鉄筋コンクリートの校舎が大きな被害を受けることがあり得るということです。
 実際、長江さんによると、熊本地震の時、耐震補強が終わっているはずの高校の校舎の1階の柱に、斜め方向のひび割れが見つかりました。つまりもし強い余震が来たら壊れる危険性があったわけですが、その校舎は、地震直後の応急的な危険度判定で大丈夫とされたために、その時点で校舎が普通に使われていたそうです。
 結果的に強い余震がなかったため校舎は無事だったのですが、長江さんは、将来南海トラフ巨大地震で広域の被害が出た場合、応急危険度判定がとても追い付かないということもあり得るので、学校の先生方には、最低限、コンクリートの柱に斜め方向に(あるいは×印に)ひび割れが入ったら、もうその建物は本来の強さを持っていないという「基礎的知識」を持っていてほしいと感じているそうです。我々も肝に銘じましょう。

 さて最近、長江さんは、木造建築の耐震性を、実際に加震実験で確かめる研究を進めていらっしゃるそうです。紹介された実験は、最近多くなっている木造三階建て住宅の加振実験ですが、とてもユニークなのは、現実社会での家の建て方と同じ条件にするため、わざわざ振動台の上に大量の土を置き、その上に基礎を打って木造住宅を建てて実験をしている点です。振動台にがっちりと固定して揺らすよりも、ずっとリアルに、地震の時に実際に起きることを再現できると考えられるからだそうです。

 それにあわせて、実験で揺らす住宅には、電気配線やガス、水道の配管も本物そっくりに行い、それらが地震の揺れでどのような損傷を受けるかを解析しているそうです。こうした研究は将来、地震が起きても、潰れないだけでなく、電気ガス水道などのライフラインも温存される住宅を開発することにつながると期待されています。地震の揺れで塩ビパイプの配管がどのように破壊されるかという研究を、実際に家を揺らして実験しているのは、世界でも長江さんたちの研究グループぐらいなものだそうで、まさにオンリーワンのユニークな研究ですね。

 考えてみれば、熊本地震で震度7の揺れが立て続けに2度起きた地域でも、倒れなかった住宅のほうが多かったということは、地面の上で住宅の基礎が滑ったり、柱と梁のつなぎの部分の余裕などで揺れのエネルギーが吸収されたせいなのかもしれません。
そういう意味では、まだまだ地震の揺れと建物の被害の関係は、解明されていない部分も多く、実際に実物大の建物を揺らして確かめるEディフェンス実験の今後に期待がかかります。

 今回もたくさんの方にお集まりいただき、コンピューターシミュレーションと実際に揺らす実験との違いは何かなど、長江さんとの対話が行われました。
長江さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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